やさしいうた
やさしいうたってなんだっけ と君は言った
目をつぶると流れるメロディを君にも聞かせてあげたいけれど
あいにく僕の喉はからからに乾いている
ひきつれた襤褸のような声は風にまぎれて
君を通り越して 向こうの海へ散っていった
やさしいうたってなんだっけ ともう一度君は言った
僕が浮かべるのは苦々しくも透き通った笑顔ばかりで これ以上説明できそうにない
天から降ってくる銀の針のように
やさしいうたは僕を貫いて
流れた見えない血は地面を濡らした染みだけを残す
薄紅色に頬を染める君の足元にまで達した細い川の流れは
遡るように君の身体へ伝ってはくれないか
やさしいうたってなんだっけ と君は三度言った
2013.9.8