消失と

そして春の夜は更け また別の朝を連れてくるのでした

今でも私はあの夜を忘れはしないのですが

あんまり朝日が眩しいもので

なんにも見えなくなってしまうこともあるのです

目の前も 昨日の月も あの夜のあなたも

見えなくなってしまうのです

 

おはよう

そう微笑みかける先のあなたはもういません

満開だった桜の花は

夜半の風でおおかた散ってしまったようですが

その唐突さと呆気なさには

あなたを思いださずにはいられませんでした

 

窓から流れ込む風の中に

軽やかなピアノの調べを幻聴しました

あなたの好きだった あのメロディです

ひょっとして どこかであなたが弾いているのでしょうか

そう祈ることは 許してほしいのです

 

無言の時計はいつの間にか十時を指し

テーブルの上の珈琲はすっかり冷め

外の雀もカーテンに一瞬影を落とすばかり

ゆらゆらと ひらひらと

風に舞う白布に目を奪われていれば

また時は 静謐の中 過ぎていくでしょう

 

本当に? 本当に?

私はまだ つい問うてしまうのです

まだ? つい? いつまで?

きっと いつまでも

 

2015.5.8