秘密の抜け道

午後八時半 もう閉まった暗い店の前で

一つの公衆電話だけが

街灯を浴びて夜に浮かんでいた

誰がかけるのか 誰がかけるのか

与えられた役割が動き出すのを じっと待っていた

僕のポケットには 十円玉が二枚

果たして誰かにかけてみようか

覚えている番号は一つもない

ただ 夜空の向こうへつながるような気がして

受話器を取って

そして

戻した

背後の道を 何も知らずに車が走る

僕が握っていたそれが 世界のどこかへつながるだなんて知らずに

びゅんびゅんと

 

2015.5.2