漂流

大勢の人がいる中でたった一人いるときのあの孤独と嫌悪と一片の心地よさは何だろうか 私が私でしかない中で多くの人々の間を過ぎ行き一人の私を皆が笑っているのではないかと被害妄想にさいなまれる羞恥と諧謔と逆説的な優越感は何だろうか 人の海を泳ぎ人の島に辿り着く 一人で そこにいる人はただ袖すり合うだけの人で他生に縁があろうとも今生の私とこれ以上の縁を欲するのか 泳ぐ泳ぐ 息継ぎをする 泳ぐ泳ぐ 息継ぎをする どこまで行くのか 何があるのか 私はこのまま一人なのか 冗句をジョークと笑い飛ばせぬ泳ぎ疲れた私に誰かタオルをかけてはくれないか 大きなまっさらな柔らかいタオルを 使い古しでもいい 私の裸の背中を包み込んでくれるなら ああ ああ 泳ぐ泳ぐ どこまで泳ぐ

 

2013.8.18

じっとじっと

言葉に時間はない

凍れる世界が永遠に動きを停め

誰かが話したその時に 誰かが聞いたその時に

あなたが読んだその時に あなたが呼んだその時に

世界は時間を吹きこまれ

言葉は歌に恋をする

動き出すその時をじっと待っている

じっと じっと

花が開くように 星が流れるように 雨が降るように

じっと じっと

       じっと じっと

言葉に 言葉は

 

2013.8.17

静かな地獄絵図

音が 音の粒が

線になって 波になって

絵になって 像になって

色をつけて 味をつけて

におって そっと触れて

溶けて 街に溶けて

人もビルも花も車も

みんなみんな 踊りだして

割れて 逃げて 砕けて 千切れて 散って

音が 音の粒が

降り注ぐ 降り注ぐ 弾ける 弾む

広がって 広がって どこまでも 広がって

七色の 十色の 二五六色の 総天然色の 白黒の

絵になって 絵になって

音が 音の粒が

 

2013.8.17

流行歌

真夏の雪は僕と君の上にしか降らない

照りつける太陽を反射する雪は 思ったよりも美しくなくて

思わず苦笑い

嘘みたいな雪の白さは

入道雲よりも ソフトクリームよりも 君の肌よりも

嘘だ

本当のものがみたいと君が言うから

ポケットの中を必死に探すけど

コーラの瓶の蓋と 潰れた折り鶴と 十円玉と

あとは一握りの嘘しかなかったから

これが本当のものだよ と流行りの歌をうたったら

君はずいぶんと喜んでくれた

今の僕のポケットには 三欠片ばかりの嘘と

あの時言えなかった本当が入っている

 

2013.8.17

ミッシングリンク

夏の暑い一瞬に

言いようのない空白を感じるときがある

夏の頂点を突き抜けるような思いで

アスファルトの上を走る午後三時

後から思えば

あの瞬間こそが一枚の絵だった

熱い空気の塊を泳ぐ その時はわからないけれど

青空を切り取る白い稜線

迫りくるそれが空を黒く染める

僕らはそれを待ち望んでいた

叩きつける水と風は どこかから来て どこかへ行く

あの夏とその夏を繋ぐこの夏を

僕はまだ知らない

 

2013.8.16